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福岡高等裁判所 昭和32年(ネ)595号 判決

控訴人(申請人) 五郎丸常盤

被控訴人(被申請人) 三井化学工業株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対してなした昭和三十一年六月二十九日付解雇の意思表示の効力を停止する。訴訟費は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、疎明の提出、援用、認否は次のように付加するほかは、全部原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(ただし原判決十六枚目裏五行の「計品室」を「計器室」と訂正する。)

一、控訴代理人は次のように付加主張した。

(一)、解雇理由(一)、(二)について。

昭和三十一年三月三日のW工場部分スト当時同工場に赴いたピケ隊その他の組合(三池染料労働組合のこと、以下同じ。)側は控訴人も含めてストライキに入れば当該工場は作業が停止されるものであるという工業所(三井化学工業株式会社三池染料工業所のこと、以下同じ。)における従来の慣行からW工場についてもその作業が停止されるものと信じ、W工場の停止作業が進められているものと考えてその経過を傍観していたものに過ぎず、まさか会社(被控訴人三井化学工業株式会社のこと、以下同じ。)が作業の継続を企てているなどは毛頭考えていなかつたものである。従つて控訴人等と木谷課長、岩越係長等との間に作業を「停める」「停めない」などの問答の行われる余地はなかつた。すなわち本件W工場の作業停止の措置は組合がWA両工場の部分ストライキを実施したことに伴い会社が自らW工場ならびにA工場の操業を停止したものにほかならない。しかも当時W工場において消費された塩素はW工場の作業を停止し後記のようにこれを他の工場に増配し、または減電操作を行う等の方法により処理し得たものであるからW工場の停止によつて会社が損害を蒙つたとすればそれは会社が敢えて十分な措置をとらなかつたことに起因するものである。しかも木谷課長はW工場の操業停止をなすについては同日十八時五十分頃からこれが現実に停止するまでの間二時間二十分というものは自らO工場と連絡し万全の措置をとつたうえでこれを停止したものであつて、その間ピケ隊員その他の組合側からなんらの妨害も強制も受けたことはなく、全く木谷課長の責任において自主的に停止作業を行い停止するに至つたものであるからその停止の結果については自ら停止した会社側において当然その責を負うべきである。従つてかりに控訴人等がW工場の右操業の停止を要求したとしてもかかる程度の説得行為はピケッティングとして正に許さるべき範囲の行為である。またかりに会社においてW工場の操業を継続する意思があつたものとすれば、会社は組合が操業停止中の工場を警戒するために差し出した保安要員を異議なく受領しながら操業のために使用したことになり、このことは労働者と使用者間の信義の原則に反するものであるから、その責は会社の負うべきところであり、従つて組合側特に控訴人になんらの責はないといわなければならない。

しかも被控訴人の主張するようなO工場の電解槽が破壊された事実は全くなかつたのである。すなわちW工場が操業を停止してもW工場で消費していた塩素を他の塩素処理工場に振り向ける方法または減電によりO工場の塩素発生量を減少せしめる方法等によつてO工場電解槽の破壊を防止することが可能であつた。これを前者の方法についていえば当時N工場の塩素の消費能力は一日最大約十一・一トンであつたが、三月予算は一日八・五トンであるからここに二・六トンの消費余力があつたことになる。また晒粉工場においては三月予算は一日〇・六トンであつたが、消費能力は二トンであつた。従つてここにさらに一・四トンの余力を生ずることになる。なおD工場においては三月予算は二・七トンであつたが、消費能力は四・八トンであつたから、二・一トンの余力があつた。従つて本件争議当時会社における塩素処理能力は当時の予算に比して少くとも六トンの余力があつたことは疑のないところである。これに加えて減電によつてもO工場の塩素の発生を相当量(約三トン程度)減少せしめ得たものであるから当時W工場の停止によつて生ずる四・五トンの塩素と一・五トンの塩酸ガスの余剰を処理することができたことは疑問の余地のないところであつて、このことは過去昭和二十三年九月および同年十月ならびに昭和二十五年三月の争議に際していずれもO工場の電解槽の一部が停止されたにもかかわらず、なんら電解槽の破壊、損傷を来たした事実もなく、またこのことについて会社から抗議をうけた事実もないことならびに本件争議当時組合の執行委員長であつた野口正己が昭和三十一年三月五日十三時三十分頃O工場に行つたところ、電解槽一系列の中二基のみがとり出されてあつたので現場に居合せた中村係長に説明を求めたところ、破壊したのはこの二基のみで他は異常がないとの説明を受けたことなどによつてもきわめて明らかなところである。

かりに被控訴人主張のようにO工場の電解槽の破壊があつたとしても控訴人がこれについて重大な過失があつたものとなすことはできない。そもそも本件争議にさきだつ会社組合間の保安要員交渉に当り、会社側はW工場は停止できないから組製メチレンクロライド製造作業を四名の保安要員により行いたいと主張するのみでそれについて二、三の説明は行つたが、塩素発生と消費との具体的な状況、電解槽の実状等についてはさしたる技術的な説明も行わなかつた。従つて組合側としてはW工場の停止が当時の状況として技術的に絶対にできないものであるかどうかは知るに由ないところであつた。そこで組合としてはひつきようその技術顧問の検討の結果を信ずるほか他に判断の根拠とすべき資料がなかつたのである。しかして前述のように組合側が会社はストライキに入れば当然W工場は停止するものであると信ずることが極めて当然の成行であつたのであるから、これと当時の保安要員交渉における会社側の態度その他諸般の事情とにかんがみれば控訴人にW工場の操業を停止すればO工場電解槽に損傷を来すとの点の認識がなかつたとしても、これを重大な過失として責めることはとうてい当を得たものということができない。

(二)、本件懲戒解雇は不当労働行為である。

控訴人がW工場の計器室にいたのは当日(昭和三十一年三月三日)十八時から十分余のことであり、しかも岩越係長が巡視を終つて帰つてきたときはすでに木谷課長がW工場の操業停止のためO工場へ電話をした後のことであつた。このことからみれば控訴人に対し本件ピケについての率先実行者としての責任を問う理由はない。しかして控訴人を本件ピケの企画に参与したものとして責任を問うのであれば安部書記長の如きさらに重大な責任を問わるべき筋合である。しかるに控訴人のみを懲戒解雇に処したことは解雇理由(一)、(二)のほか解雇理由(三)、(四)をも併せて懲戒解雇に付すべきものとしたからにほかならない。ところが解雇理由(三)、(四)は正当な組合活動であり懲戒理由にあたらないのであるから会社は控訴人に対して解雇理由(三)、(四)に示す組合の正当な行為を理由として不利益な取扱をしたことになる。この意味からも本件懲戒解雇は無効である。

二、被控訴代理人は控訴人の右主張に対して次のように述べた。

(一)、工業所においては争議中は当然に操業を停止するなどという慣行は存しない。工業所においては今迄大口塩素処理工場がストライキに入つたことは一度もなかつた。従つていまだかつて生起したことのない事例についても慣行を云々すべき余地のないことはいうまでもない。また昭和三十一年三月二日午前より翌三月三日深更まで四回に亘つて繰り返された保安協定交渉において会社側はその冒頭よりW工場等大口塩素処理工場は食塩電解工場であるO工場との関連があるから会社は争議中といえども絶対に操業を停止しないとの態度を明白に表明しておいた。右協定交渉には控訴人は勿論当時の組合書記長安部靖も組合を代表して終始出席していたのであるから組合も控訴人自身も会社のW工場操業継続の意図については十二分に承知していた。従つて組合がストライキに入れば会社がW工場の操業を停止すると信ずべき余地は全くなかつたのである。

W工場が部外者の立入禁止工場であることは敢えて高圧ガス取締法の規定を俟つまでもなく工業所内に周知のところであつて、かりに平素ときに部外者の立入ることがあつたとしてもそれは工場管理責任者の許可のもとに立入つていたのであり、本件の場合における控訴人はじめ組合ピケ隊の所為の如く右W工場責任者たる木谷課長の再三の退去要求を受けてなお退去しないことを正当化するわけにはいかない。しかしてこの理は平時も争議中も全く変りはないのであつて、争議中にはその実施状況を把握するため許可なく立入つてもよいというような法理はない。しかも本件ピケの真の目的は会社側に対し強圧を加えてW工場の操業停止を強制するにあつたものであり、しかも会社側は前記のようにすでに本件争議開始前に組合に対し明確にW工場は争議中と雖も操業を継続する旨表明しており、また現実には非組合員および組合より協定により争議不参加者として差した従業員を以つて操業を続行し、もし組合が右要員の差出を拒んだときは非組合員だけででも保安作業続行の態勢を整えていたところ、組合は四、五十名のピケ隊員を動員して最も精緻な作業を要求されているW工場計器室内に無断侵入し、控訴人は岩越係長に暴行脅迫を加え、またはその他の者とともに口々にW工場の操業停止を木谷課長、岩越係長等に強要し、遂に右操業の続行を不能ならしめたものであるから本件ピケは明らかにその正当な範囲を逸脱した違法なものである。

また控訴人は会社側は組合が警戒要員として差し出した保安要員を異議なく受領したというが、これまた全く事実に反する。W工場のスト突入の際組合が保安要員は二名と通告したのに対して会社側は勿論組合側たるW工場支部長すら憤慨して異議を述べ、その結果遂に一名追加して三名となつたのである。しかして前記保安協定交渉においても本件W工場のストライキにおける保安要員が単に警戒業務のみに従事すべきものとの留保を付せられたことはなく、会社もこの様な約束をした覚えはないし、組合がその後も会社に対してこのことについて抗議を述べたこともない。

(二)、控訴人はO工場電解槽が破壊されたことについて控訴人には重大な過失があつたとすることもできないと主張するが右主張はとうてい容認することができない。

そもそも前記のように四回に亘つての保安要員交渉に会社からはその第一回には平沢調査員、第二回以降は平沢、木村両調査員が出席し、右交渉の冒頭において会社は乙第九号証別紙「協定申入れの件」を組合側に提示するとともに当時における塩素の発生消費の関係を説明しW工場等塩素大口消費工場が運転を停止する様なことがあると残りの塩素消費工場ではO工場において発生している塩素を消化し切れず、従つてただちにO工場電解槽の破壊廃棄を招来するから争議中といえどもこれら大口消費工場は運転を停止することはできないとその技術的理由を詳細に説明しているのであり、これに対し組合側は塩素消費工場でも止められると反駁し、平沢調査員の重ねての説明に対しても依然停められるとの意見を固執するばかりで会社側より停められる理由につき説明を求めてもなんらその理由を開示するところがなかつたのである。

さらにまた会社側としてはW工場を停止し得ざることについては単に保安要員交渉の席上説明したのみでなく、現実にW工場がストライキに入つた後控訴人始め組合のピケ隊員等より運転を停止せよとの強烈な圧力をかけられた際にも重ねて木谷課長、岩越係長等より繰り返しこの点を強調し続けたのである。しかも組合執行委員会がW工場等塩素の消費工場をストライキに入れた場合はその操業を停止するとの決定は三月一日の十七時三十分から開かれた執行委員会でなされたもので、堀円治の調査に基いて初めてその様な方針を定めたものではない。

以上の事実と控訴人のなした暴行、脅迫の事実を考えあわせれば控訴人には必然的にO工場電解槽の運転停止損傷を惹起するについて完全な意味での故意があつたものであり、かりにそうでないとしても少くとも所謂「未必の故意」はあつたものといわざるを得ない。

このことはO工場電槽一列の運転停止後、会社側はこのまま電解槽をむざむざ破壊に任せるにしのびず、高橋人事課長代理等を通じて組合に再三電話連絡して「いま通電することができればまだ電解槽は助かる。O工場の状況を見に来てくれ。」といつたけれども控訴人はその電話に応待してにべもなく拒絶してしまつたことからも容易に推認することができる。

(三)、控訴人のその他の点についての主張事実は全部否認する。

三、被控訴人は次のように付加主張した。

(一)、解雇理由(一)について。

就業規則第八十六条第十三号後段の「上長」とは単に職務上の上長、すなわち直属上長のみを指称するのではなく、一般に職階上の上司を意味するものと解すべきである。かりに職階上の上司というのではなく、職制上ないしは職務上の直属上司を指称すると解すべきものとしても本件の場合における岩越係長と控訴人との関係についていえば岩越係長は有機第一課W係の係長であつて、W工場の作業および管理運転に関する第一次の責任者にほかならず、W工場における作業および施設管理と秩序維持についてはその職責に由来する直接の権限を有するものであるからことW工場に関する限りは部外者部内者の如何を問わず、いやしくもW工場に立入る者は特にこの権限を排除すべき格段の事由がない限りはすべて同係長の指示命令に服従すべき義務があるものである。この意味において本件の場合控訴人の岩越係長に対する暴行脅迫は上長に対する暴行脅迫として前記懲戒事由に該当するものというべきである。

(二)、解雇理由(五)について。

会社は組合の組合員に対する連絡等について便宜を与える趣旨で会社の施設である構内電話は勿論、さらに構内一齊電話を就業時間中といえども組合に使用を許して組合員の動員連絡等を容易ならしめており、これによればニユースカーによつて構内を一巡するよりも数倍も早く組合の連絡や指令を組合員に撤底させることができる。会社は従来組合の申出があれば殆んど常にその使用を許容してきているのであつて、もし組合が組合員に対して緊急の連絡事項があるときはいつでもこの施設を利用することが可能であるから、会社が工業所内においてニユースカーの運行を禁止している措置は正当で、かかる禁止を熟知しながら敢えてこれを犯した控訴人の行為は明らかに工場の秩序を紊したものというべきである。

四、控訴代理人は被控訴人の右三の(二)の主張に対して次のように述べた。

会社に構内電話および構内一齊電話の施設があり、組合に対してもこれが使用を許されていることは認めるが、組合としても会社側に秘密を保つ必要のある指令や複雑な内容の情報を伝えるために会社の構内電話や構内一齊電話が利用できないことは当然であるから構内電話や構内一齊電話の使用が許されているからといつて会社の主張するようにニユースカーによる組合活動の必要性がないということはできない。

五、疎明関係〈省略〉

理由

当裁判所は左記のとおり付加訂正するほか、原判決に記載された理由と同一の理由によつて控訴人の本件仮処分申請は理由がないものとしてこれを却下するのほかないものと判断するから、ここに右理由の記載を引用する。

一、原判決三十八枚目表一行の「重大な廻失により」を「重大な過失により」と、同五十一枚目表七行(注、例集八巻四号四八四ページ一五行)の「塩酸として」を「塩酸ガスとして」と、同六十一枚目裏三行から四行にかけての「厳重抗義」を「厳重抗議」と、同九行および同六十九枚目表十二行の各「抗義デモ」を「抗議デモ」とそれぞれ訂正し、同五十四枚目裏九行(注、四八七ページ一六行)の「しかるに」から同十二行(注、同一八行)の「類推適用すべきものとしても」までを、同六十枚目表十一行(注、四九二ページ一一行)から同十二行(注、同一二行)にかけての「国内における他の化学工場においてもかようなことは行われたことがなく」を、同六十九枚目裏十行(注、五〇〇ページ一〇行)の「会社の管理権も」から同末行(注、同一二行)の「これらの事情を考慮すれば」までをそれぞれ削除し、同五十四枚目裏七行(注、四八七ページ一六行)の「指称すると解すべきである。」の次ぎに「従つて岩越は右の意味において控訴人に対して上長ということはできないが、就業規則第八十六条第十三号が特に職場秩序の保持を目的とした規定であることに徴すれば岩越がW工場の係長として右工場における作業および施設管理と秩序維持についてその職責に基いて直接の権限を有する者であり、しかして本件はその職務上の指揮、命令関係ではないにしても右工場において岩越の右職責遂行に関連してなされたものである以上、右懲戒規定は当然本件の場合に類推適用さるべきものと解すべきであるが」を挿入する。

二、当審証人榎下常雄、田中嘉八郎、塚本三知男、松永喜八郎、稲井茂昌の各証言と当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信することができないし、当審におけるその他の新たな証拠もなんら右認定を左右するものではない。

三、なお以下各個の解雇理由について原判決の説示に次のように付加する。

(一)  解雇理由(一)、(二)について。

(イ)、原判決が解雇理由(一)、(二)で認定している事実(原判決三十九枚目表一行(注、四七四ページ三行)から同五十二枚目表十一行(注、四八五ページ一四行)までの事実)の疎明として原判決挙示の疎明資料のほか、いずれも成立に争いのない乙第三十六ないし第三十九号証、第四十三号証と当審証人平沢秀江、中富正、木谷和夫、岩越和夫、稲井茂昌、高橋総、渋谷勝雄の各証言を加える。

(ロ)、次に組合の本件ピケッティングが正当な範囲を逸脱したものである点についてすこしく当裁判所の見解を付加することにする。

もとより争議は労働者が自己の労働力の供給を遮断して、でき得れば使用者の操業を阻止することによつて自己の要求を貫徹することを目的とするものであるから、使用者の業務を停止させることが目的とされることは当然である。従つてその一方法として行われるピケッティングにおいてもその目的達成のためにはそれが積極的に暴行脅迫に至らない限りはある程度の強硬な説得ないし集団的示威が行われたとしても必ずしもこれを以つて右ピケが正当な争議行為の範囲を逸脱したものとなすことはできないものであり、しかして右の正当な範囲はまた使用者の右争議に対する態度(すなわち使用者にスト破りその他の甚だしい不信義や違法行為があるかどうか。)あるいはそのピケッティングの対象となる者の如何(すなわち組合脱落者か、しからざる非組合員たる従業員か、あるいはスト破りに動員された一般労働者かまたは完全な第三者か。)その他の事情によつても異るものと解すべきところ、これを本件についてみるに本件においては会社は前示のようにW工場の特殊性からこれが操業継続を決意し、万一の場合においては非組合員である職員によつても作業を続行することを決意していたものであつて、これはまた会社側の操業の自由に属する当然の行為であるといわなければならない。

しかも当審証人木谷和夫の証言によつても明らかな如くW工場は我国においても唯一ともいうべき最近式オートメーション工場で(昭和三十年五月に竣工、翌六月より運転開始)特にその計器室では綿密な作業が要求され、その操作を誤まればガス爆発等の災害発生の危険性があること、従つてW工場は高圧ガス取締法の規定を俟つまでもなく部外者の立入禁止工場であることおよび当時会社側はいまだW工場の非組合員たる係員と組合側から差し出された保安要員のみによつて操業を続行していたこと等諸般の事情にかんがみるときは、かかる場合組合としては特に計器室の特殊性に留意してその業務の遂行に直接妨害を加えないような方法で現にW工場の作業に従事している前記係員を平和的に説得し、あるいは団結の示威等によつてその職場の放棄を勧告して(もし組合側から差し出した保安要員が控訴人主張のような趣旨で差し出されたものとすれば右程度の説得示威を以つてしても右操業停止に成功しなかつたならば、組合としてはただちに会社に右保安要員の使用方法について異議を述べ、その異議が無視された場合には保安要員の引揚等も当然考慮し得たであろう。)前記操業の阻止に努めることは当然なし得るところであるが、その限度を超えてW工場の頭脳ともいうべき計器室に多人数で侵入喧騒し、W工場の管理責任者の退去要求にも耳をかさずしてあくまでも右工場の操業停止を要求してその目的を貫徹するため原判決認定のような挙に出たことは非組合員たる係員等の固有の業務の執行を直接に妨害すると共に会社の前記操業の自由を侵害したものであつて、とうていこれを以つて正当な争議権の範囲に属するものとなすことはできない。

(ハ)、控訴人は工業所においては争議に入れば当然に当該工場は操業を停止する慣行があつた旨主張するが、これを疎明するに足るような適切な資料はない。

(ニ)、また控訴人は組合がストに入れば会社がW工場の操業を停止することを信じて疑わなかつた旨主張し、当審証人榎下常雄の証言と当審における控訴本人尋問の結果中には右主張に副うような部分があるが、これらはいずれも原判決が解雇理由(一)、(二)で認定している事実中の「(2)同日のW工場部分ストに至るまでの経過」(原判決三十九枚目表一行(注、四七四ページ三行)から同四十一枚目表八行(注、四七六ページ三行)まで参照)に照しとうてい措信し難いところであり、その他右事実を疎明するに足るなんらの資料もない。(もつともかりに控訴人等がW工場の操業停止を信じて疑わなかつたとしてもこれを以つて控訴人等の本件争議行為を正当ならしめる根拠とはならないであろう。)

(ホ)、さらに控訴人はW工場の操業停止は会社側特に木谷課長の責任においてなされたものであるからその結果については会社側が当然その責に任ずべきであつて、組合側、特に控訴人にはなんらの責はないと主張するが、木谷課長がW工場の操業停止を決意するに至つた事情は既に認定のとおり(原判決四十四枚目裏十一行(注、四七九ページ七行)から同五十一枚目表三行(注、四八四ページ一二行)まで参照)控訴人等ピケ隊が多数W工場計器室内に侵入しW工場の操業停止を強要して混乱状態を呈したので、この混乱によつて惹起する可能性のある爆発その他の危険状態を避けるためやむなくなされたものであり、しかも右操業停止の結果惹起した本件被害が木谷課長その他会社側の故意または過失に起因したことについてはこれを疎明するに足るなんらの資料もないから控訴人の右主張は採用の限りではない。

(ヘ)、また本件W工場の部分スト(第二波スト)に当つての保安要員交渉はW工場について会社の要求する保安要員数は四名で、保安作業の継続を前提とするものであるのに対し組合案は保安作業を予定せず、単に警戒要員として二名を差し出すというのであつて、遂に会社、組合間には最後までこの点についての交渉は妥結するに至らなかつたことも前示認定(原判決三十九枚目裏十行(注、四七四ページ一七行)から同四十一枚目表八行(注、四七六ページ三行)まで参照)のとおりであるから、会社が右組合案を受け入れ、これを前提として組合が保安要員(すなわち組合側のいう警戒要員)を差し出したというのであれば格別であるが、かかる事情のなんら疎明されない本件においては会社が組合から差し出された保安要員三名をW工場の操業のために使用したとしても右操業が保安作業の範囲を逸脱しない限り必ずしもこれを以つて控訴人主張のように会社の組合に対する信義則違反の行為ということはできない(もしこの場合組合が会社側の処置を以つて信義則違反と認めたならばただちに異議を述べ、これが無視された場合には保安要員の引揚をもなすべきであつたと考えられること前記のとおりである。)からこの点に関する控訴人の主張もとうてい採用することができない。

(ト)、次ぎに被控訴人の主張するようなO工場の電解槽破壊の事実はなかつたとの控訴人の主張について判断を加えることにする。

なるほど原審証人堀円治の証言によれば同人は組合の技術顧問として昭和三十年度第四・四半期の塩素バランス表や現場係員からの実状聴取をもとにしてO工場についてその塩素消費状況を検討した結果、O工場で発生する塩素の数量は約三十一トンであり、右塩素はOB工場約三トン、D工場約二・七トン、VM工場約五・二トン、BHC工場約四・九トン、N工場約八・五トン、B工場一・四トン、W工場四・五トン(W工場はその他D工場から送られてくる約一・三トンの塩酸ガスを消費している。)その他の工場によつて消費されている。しかるにN工場の最大塩素の処理能力は十一・一トン、D工場のそれは四・八トン、OB工場のそれは四・四トンである。従つてかりにW工場の操業が停止されても右W工場によつて消費されていた塩素四・五トン(塩酸ガスは塩酸にして容易にストツクできるからこれは考慮外においてよい。)をW工場以外の他の工場で消費できればよいわけであるが、前記のように既にN工場で二・六トン、D工場で二・一トン、OB工場で一・四トンの消費能力についての余裕があるわけであるからW工場で消費を予定されている四・五トンの塩素は十分N、D、OBの三工場のみによつても消費することができると算定し、なおO工場電解槽についても約十パーセントの減電により塩素発生量を約三トン抑制し得るとみて、W工場を停止してもその分の塩素については容易に支障なく処理し得るものと判断したことが疎明されるので右の事実とペン書き部分の成立について争がなく、その余の部分は前記堀証人の証言によつてその成立を是認し得る甲第十三号証ならびに当審証人武藤清人の証言によつてその成立を是認し得る同第一四号証の各記載を併せて考慮すれば控訴人が当審で主張する事実が一応疎明されないこともないようではあるが、堀円治の右判断がやや早計に失したものであつて、必ずしも現実にあてはめて適確なものということができないこと前記認定(原判決五十九枚目表八行(注、四九一ページ一三行)から同六十枚目表四行(注、四九二ページ七行)まで参照)のとおりであり、さらに原審証人塚本朝次の証言によればO工場における塩素の発生量およびO工場の関連工場における塩素の消費量は必ずしも常に予算表と寸分も異らないように行われるものではなく、たとえば当時O工場における塩素の発生量は予算(約三十一トン)を超えて約三十二トンであつたこと、N工場の塩化作業を行うにはその際発生する塩酸ガス中のモノクロールベンゾール、ジクロールベンゾール等を捕取する作業と塩酸ガスを吸収する作業とを同時に行わなければならないが、N工場にはその吸収ならびに捕取設備が十分でないため同工場における塩素の消化量は約八・五トンを出ることができなかつたことおよび当時その他の塩素処理工場もD工場の〇・七トンを除いてはいずれも塩素の余剰消費能力はなかつたことがそれぞれ疎明され、また右塚本証人の証言と原審証人北島武夫、当審証人平沢秀江の各証言によれば減電によつてO工場電解槽の塩素発生量を抑制する方法は爆発その他の危険を伴うことがあるので工業所としてはできるだけこれを避ける方針であり(当審証人武藤清人の証言中右認定に反する部分は前記各証言と対比して措信できない。)、かつ当時単式電解槽五列のうち三列が最低安全電流を示し、複式七列のうち三列も右同様であつて減電によりO工場の塩素の発生量を抑制する方法は現実的にも殆んど不可能な状態であつたことが疎明されるので、結局当時W工場の操業が停止された結果右工場で消費されていた一日約五トンの塩素(そのほかにD工場を経由してW工場へ送られてくる約一トン強の塩酸ガスがあつたがこれはそのまま塩酸としてストツクできるとして考慮外におく。)を処理するためには他の塩素処理工場における処理のみでは間に合わず、どうしてもO工場電解槽単式一列を停止するよりほかなかつた(原判決五十一枚目表四行(注、四八四ページ一三行)から同五十二枚目表七行(注、四八五ページ一二行)まで参照)となさざるを得ず、右堀円治の判断ならびに甲第十三号証、第十四号証の各記載を以つてしてもいまだ控訴人の右主張を首肯するに十分ではなく、その他これを肯認せしめるに足るような資料はない。

なお控訴人は昭和二十三年九月および同年十月ならびに昭和二十五年三月の争議に際してはいずれもO工場の電解槽の一部が停止されたと主張し、甲第二十五号証の一、二および四と当審証人原嘉彦、細谷治嘉、安部靖の各証言中には控訴人の右主張事実に副う部分があるが、これらは成立に争のない乙第四十六号証と当審証人古賀初男の証言によつてその成立を是認し得る同第四十五証、当審証人高橋芳雄の証言によつてその成立を是認し得る同第四十九号証の一ないし四ならびに当審証人古賀初男、高橋芳雄の各証言と対比してただちに措信し難いところであり、その他控訴人の右主張事実を疎明するに足るようなんらの資料もない。また控訴人は本件争議当時の組合の執行委員長であつた野口正己がO工場の中村係長から電解槽の破壊したのは二基のみであつたとの説明を受けたと主張するが、控訴人の右主張事実に副う当審証人野口正己の証言も当審証人中村厚の証言および同証言によつてその成立を是認し得る乙第四十八号証と対比してにわかに信を措き難いところである。従つて控訴人の右各主張事実によつてはとうていO工場の電解槽破壊についての当裁判所の前示認定を左右し得ないものといわなければならない。

(チ)、そこで右O工場の電解槽の破壊について控訴人に故意または重大な過失があつたかどうかについて考えてみることにする。

この点についても控訴人に重大な過失があつたものと認められることは前示のとおりである。

保安協定交渉中に会社側から組合側に対してW工場が停止すべからざる理由について組合側を納得させる程度に詳細な説明がなされたことは当審証人平沢秀江の証言によつても必ずしも明確ではない。また原審ならびに当審証人木谷和夫、岩越和夫の各証言によればW工場にピケ隊が侵入した際木谷課長、岩越係長よりW工場はO工場との関連工場であるから操業を停止することはできない旨強調されたことは疎明されるが、それ以上に特に詳細な説明がなされたことについては十分な疎明はない。

被控訴人は右電解槽の破壊について控訴人に故意またはすくなくとも「未必の故意」があつたと主張するので考察するに原審証人塚本朝次、原審ならびに当審証人高橋聰、稲井茂昌(原審の分は第二回)、当審証人渋谷勝雄の各証言によれば前示のようにO工場の電解槽の一列八十二基が停止した結果会社側としては食塩水を電解槽に注入してこれらの電解槽の損傷を防止しようとしたがその防止策も限度にきたところから同日(昭和三十一年三月三日)二十一時三十分頃高橋総務課長代理は再度にわたり組合事務所に電話をかけ、組合幹部がO工場の実状を見にくるように要請したのに対し控訴人はその都度電話口に出てこれを拒絶したことが疎明される(当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。)。従つて前示のように(原判決五十七枚目表一行(注、四八九ページ一四行)から同裏十一行(注、四九〇ページ九行)まで参照)組合執行委員会が堀円治の判断に基いてW工場が停止してもその分の塩素の処理は支障なくなされ得るものとの見解に達していたとはいえ、会社側から電解槽が破壊の危機に直面しているとの連絡があつたのにこれを全く無視したことは控訴人としても甚だしい懈怠の責を負わねばならない(従つてこのことも控訴人に重大なる過失があつた一原因を加えしめるであろう。)ところであり、組合としてもその処置に当を得なかつたことはいうまでもないが、また一面控訴人が右連絡をどのように理解したかについてはただちにこれを断定し難いところであるから右の事を以つて右電解槽の破壊について控訴人に故意または未必の故意があつたものと即断することはできない。

なお原審証人安部靖(第二回)の証言によれば組合執行委員会がW工場の操業停止を決定したのは昭和三十一年三月一日十七時三十分であつたことが疎明されるからこれを前示認定の諸事実に徴すれば右組合執行委員会の決定は会社と組合間の保安協定や堀円治の組合執行委員会への判断報告以前になされたことになるが、右のような事実があるからといつて右認定を左右することができないことはいうを俟たない。

(二)、解雇理由(三)について。

原判決が解雇理由(三)で認定している事実(原判決六十一枚目表六行(注、四九三ページ六行)から同六十二枚目裏一行(注、四九四ページ七行)までの事実)の疎明として原判決挙示の疎明資料のほかいずれも成立に争いのない甲第二十四号証、乙第十三号証、第十六号証、第三十九号証と当審証人大須賀喬の証言を加える。

(三)、解雇理由(四)について。

原判決が解雇理由(四)で認定している事実(原判決六十四枚目裏五行(注、四九六ページ五行)から同第六十六枚目裏四行(注、四九七ページ一六行)までの事実)の疎明として原判決挙示の疎明資料のほか当審証人稲井茂昌(ただし前記措信しない部分を除く。)、高橋聰、大須賀喬、永田幸次の各証言を加える。

(四)、解雇理由(五)について。

(イ)、原判決が解雇理由(五)で認定している事実のうち原判決六十七枚目裏二行(注、四九八ページ一二行)から同六十八枚目表三行(注、四九九ページ二行)までの事実および同六十八枚目裏一行(注、四九九ページ九行)から同六十九枚目裏三行(注、五〇〇ページ七行)までの事実の各疎明として原判決挙示の各疎明資料のほかそれぞれ成立に争いのない乙第三十九号証と当審証人高橋聰の証言を加える。

(ロ)、なお控訴人が工業所構内においてニユースカーを運行した所為を以つてしては就業規則第八十六条第十二号に所謂「著しく工場の風紀、秩序を紊した者」に該当しない所以についてすこしく当裁判所の見解を付加することにする。

工業所に構内電話および構内一齊電話の施設があり、組合にもこれが利用を許されていることは当事者間に争いがなく、またいずれも成立に争いのない乙第四十一号証および第四十二号証に当審証人高橋聰、稲井茂昌、安部靖(ただし安部証人の証言中後記措信しない部分を除く)の各証言を総合すれば工業所では構内一齊電話によつて一時に工業所全部に漏れなく意思を伝達することができ、会社は組合に対しても平時と争議中とを問わず何時でも組合から申出があれば原則としてその利用を許している(当審証人安部靖の証言中右認定に反する部分は措信できない。)ことが疎明される。そもそも会社の構内管理権は決して無制限なものではなく、組合の団結権に基く組合活動との関係で調和的に制限せらるべきであるから、会社は組合活動の便宜をも考慮してある程度の譲歩を行うべきであり、組合としてもでき得る限り会社の右管理権を尊重しなければならないことはいうまでもないところである。また組合において会社側に秘密を保つ必要のある場合のあることは容易に推測するに難くないところであるが、かかる場合にニユースカーで伝達することは秘密をもらすこととなるのでそのためにニユースカーを必要とする理由はない。しかし複雑な内容の連絡あるいはただちに全組合員に直接周知徹底せしめる必要のある事項については常に必ずしも構内電話または構内一齊電話を以つて事足るとは考えられないから如何なる場合においても被控訴人主張のようにニユースカーの構内運行禁止の措置が正当であり、これに反する組合側の所為が常に懲戒事由になるべきものとはなすことはできない。本件の場合ニユースカー運行の目的が組合の期末一時金要求の闘争に関し当日(昭和三十一年五月十七日)昼休みに行われる抗議デモおよび決起大会に組合員を動員するために呼びかけを行うことにあつたことは明らかである。かかる場合構内電話または構内一齊電話によつても工業所内各現場事務所に連絡することは容易になし得るところではあるが、ただちに全組合員に動員を呼びかけるためにはニユースカーによつて構内を運行して直接組合員に呼びかけることが極めて効果的であり、またある程度必要やむを得ないところといわねばならない。しかも本件ニユースカーの運行は休憩時間中構内の主要道路を選んでなされたもので会社の操業に最少限度の影響を与えるに止めることが顧慮されているところからすれば会社としても右ニユースカーの運行によつてその業務その他に多少の支障があつたとしても控訴人の右ニユースカー運行の所為を以つてただちに会社の禁止を無視しその構内管理権を侵害するものとして控訴人を懲戒処分に付することはいささか当を得ないものといわざるを得ない。さらに原審証人野口正己、山下忠夫、当審証人安部靖の各証言によれば右ニユースカーの運行が組合の意思決定に基き行われたもので、他のいずれの執行委員にもこれまで同様の所為のあつたことが窺われる。懲戒解雇が労働者にとつて極刑ともいうべき処置であることにかんがみれば、控訴人の右ニユースカーを運行したこと自体をとらえて控訴人をして懲戒解雇条項である就業規則第八十六条第十二号に所謂「著しく工場の風紀秩序を紊した者」に該当するものとなすことができないことは極めて明らかなところである。

四、控訴人の本件解雇は不当労働行為であるとの主張について。

この点については控訴人において当審においてやや事実を付加して主張するところがあつたので、当裁判所は原判決の認定にさらに次のように当裁判所の見解を付加することにする。

控訴人がW工場および計器室における行動は既に認定のとおりであつて、右認定に反する控訴人の主張は事実に反するものとしてとうてい採用することができない。すなわち控訴人は本件W工場におけるピケの企画についての責任を有するものと推定され、かつ右現場においてこれを率先実行した者であるとなさざるを得ない。もとより当時の組合書記長安部靖の如きも右W工場のピケについて責任を有することは原判決が解雇理由(一)、(二)の事実について認定した諸事実からしても窺い得るところではあるが、その責任の追求については会社側がその裁量権に基き諸般の事情を総合して決定し得るものといわなければならない。しかして使用者がある従業員に対してはことさら軽微な不当行為を取り上げて不相当な重い処分をし、同じ行動をした他の従業員に対しては寛大に取り扱つた場合には不当労働行為が成立し得る余地のあることはいうまでもないところである。これを本件W工場のピケの場合についてみるに当時安部靖は組合書記長であり、控訴人は組合の執行委員として組織部副部長の地位にあつて、組合内部において争議対策を掌る職責を有しいずれも右争議行為の実施方法を決定する執行委員会の構成員であつたものであるが、右ピケ企画の責任についていずれを重しとするかについての責任は全資料によつてもこれを明らかにすることができない。しかしながら右ピケを率先実行した点については本件これを前示認定の諸事実とこれが認定に供した諸資料に徴し右安部書記長を含めた他の組合幹部のうちで控訴人を最も重しとしなければならないのであつて、しかもさきに認定したように控訴人等の右行為が会社の業務を著しく妨害する不当な行為であり、右行為の結果会社に少なからざる損害を与えたものであるから、右行為の故に控訴人を懲戒解雇にしたのは会社としては一応やむを得ない措置と認められる以上、会社がたまたま同様の責任を追求さるべき立場にある安部書記長等を解雇しなかつたからといつてこれを以つてただちに控訴人に対する右解雇が同人の平素の正当な組合活動を真の理由とするものとなすことはできない。もつとも原審ならびに当審証人稲井茂昌(ただし原審の分は第二回のみ)の各証言によれば会社としては既に昭和三十年十一月十二日の稲井人事課長に対する暴行事件(解雇理由(四)の事件)の直後から控訴人に対する懲戒処分を考慮していたことが窺われないこともないので、当裁判所としては特に右W工場におけるピケが争議中の出来事であり、しかもそれが組合の意思決定に基いて行われた組合活動である点、会社が控訴人のみを懲戒解雇し他の組合幹部に対してはなんらの懲戒処分もなさなかつたこと等に留意し、種々検討を加えたのであるが、結局前記稲井証言(ただし原審第二回分のみ)と原審証人宇多脩吉の証言に前記解雇理由(一)、(二)について認定された争議行為の違法性とその間における控訴人の言動ならびに右争議行為の会社に与えた影響および本件懲戒解雇に至つた経過等にかんがみ本件解雇は前記解雇理由(一)、(二)に示された違法な争議行為ならびにそのため会社の設備機械を損壊し会社に損害を与えたことに対する責任を問うたことを決定的動機としてなされたものであると認定せざるを得ず、原審の見解を支持せねばならなかつた次第である。従つて本件解雇は不当労働行為ではないから解雇理由(三)、(四)が正当な組合活動であることを理由としての控訴人の不当労働行為の主張は採用することができない。

よつて原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担について同法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鹿島重夫 秦亘 山本茂)

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